2026.3.28
№42
二〇二六年三月二十八日
カゲちゃんへ

いかがですか。春ですね。桜がきれいです。これは本当です。嘘ではありません。

村のおとなりの田中さんが、先月からいません。奥さんは「旅行だ」と言いますが、田中さんは飛行機が大嫌いでした。飛行機に乗る人ではありませんでした。

テレビに「虚言庁」という役所が映ります。嘘をつくのに許可がいるなんて、おばあちゃんは分かりません。

おばあちゃんの一番大きな嘘は、おじいちゃんが「このおかずおいしいな」と言った時に「ありがとう」と言ったことです。でも、あれは嘘ではなく、愛でした。

黒い車も来るようになりました。村にも。おばあちゃんは怖くありません。でもね、カゲちゃん。嘘もつきすぎるのはいけない。正直もありすぎるのもいけない。そのあいだを歩いて、生きてください。

この手紙が届くかどうか分かりません。郵便屋さんも来なくなってから、久しいのです。
この手紙は配達されませんでした。── 虚言庁郵便検閲課


この手紙を読んでくれて、ありがとう。